「雲海の着想」のお話


そうなると、いわば創価学会は、壮大な教育啓蒙的母体としてそれにとどまらず、人類の平和と分化の不可欠な中核体となるだろう。
今後、やがて時代とともに徐々にこういった方向に向かうと私は考えている。
伸ちゃん、どうもそういうことになるのじゃないか。
要は『人間』を作ることだ。
伸ちゃん、この『人間革命運動』は、世界的に広がっていくことになるのだよ。


創価学会が、社会に拡散して、壮大な人間触発の大地となる。
そこから、人類の輝かしい新しい未来が眼前に展ける。まことに雄大な構想ですね……。
ずいぶん先の将来に思えますが……


遠いといっても、百年も先のことではあるまい。
しかし私の生涯に、そのような時代が来るとは、思えない。
伸ちゃん、君の時代だ。
それも、後半生の終わりごろから、その傾向が顕著にあらわれてくるのじゃないかな。


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≪ナレーション≫ 時は昭和31年1956年7月9日、午後。
山本伸一は、大阪から東京へ向かう航空機に搭乗したのであります。
機上から眺(なが)める、美しい雲海の世界は、あくまで澄み透り、さっきまで続いた個々半年の苦闘の草々を、とおい過去の足跡として、思いうかばせていた。
伸一は、それらの苦闘が実を結んだ結果に身をゆだねて、他人事のように客観視する余裕を得たのであります。

≪山本伸一≫ 苦しいと言えば、これほど苦しい戦いもない。
愉(たの)しいと言えば、これほど愉しい戦いはない。
苦楽というものは、本来ひとつのものなのかもしれない。
しかし、そういえるのも勝利の栄光が結果したからではないか。
もし敗れたとしたならば、苦しさだけが残るのではなか。

≪ナレーション≫ 伸一は慄然(りつぜん)とした。
そして『雲海の着想』は、未来へと向かった。

≪山本伸一≫ 広宣流布の長い旅程(りょてい)のなかにあって、あのような油断ならぬ苦闘から、わが友の会員は永久に免(まぬが)れることがないのだろうか。
その旅程のなかで、選挙のたびに同志の支援活動も何年かを隔てて続くだろう。すると、世間は創価学会がなにか政治的野心でもあって活動していると思うだろう。

創価学会は、あくまでも人類の永遠の幸福を願っての広宣流布という稀有の使命を担った宗団でなければならぬ。
この尊い純粋なる信仰の団体を、いささかたりとも政治化していくように見られることは、残念でならない。

大阪での戦いは勝った。
東京は敗色濃厚である。
ともに壮烈な戦いであった。

その死闘ともいうべき戦いのなかで垣間(かいま)見たものは、政治というものの底しれない魔性だった。
広宣流布をすすめる以上、その魔性との対決をもはや避けることはできない。
かといって進むには、その政治の泥沼に足を踏み入れなければならないだろう。

すると学会の広大にして偉大な使命を矮小化(わいしょうか)することになる危険性は、ありはしまいか。
だが、選挙はどうあれ、根本の信心というものを、忘れることがあってはならない。
ともあれ、広宣流布の実践活動というものは、政治、教育、文化、学術、平和運動へと多大の推進をしていかなければならないはずだ。
それを、政治を偏重する社会の通念が、学会を歪んで見、偏狭(へんきょう)な政治集団としてしまうのだろうか。

≪ナレーション≫ 勝利の直後のこの『雲海の着想』を、わが師・戸田城聖に問い質(ただ)したら、師はなんと言われるだろうか。
彼の心は東京へと、本部へと、戸田の膝下へと急いだ。
航空機の飛翔は、今の彼にはひどく、のろく、思われたのであります。


≪山本伸一≫ 先生、ただ今もどりました。

≪戸田城聖≫ おう、ご苦労。
伸ちゃん、ひどい戦をしてしまったよ。
大阪の連中は元気だろう。東京は火が消えたようだ。
いよいよ険(けわ)しい山にかかってきたな。
大事なのは信心だなあ、伸ちゃん。

(幹部が開票のメモを持ってくる)

ウーン。うまくないなあ。あとは、残票か……。
伸ちゃん、疲れたろう。今日は早く帰って休もうよ。
明日また話そう。ちょっと、考えねばならぬことも、あるのでなァ。

≪ナレーション≫ 伸一はこのとき、「私も、お訊きしなければならないことがあります」と言いかけたが、言葉をおさえた。

さて、お話の続きは、翌日の会長室であります。

≪戸田城聖≫ 熱いなァ。考えが、なかなか、まとまらなくて弱るよ。
は、は、はァ
伸ちゃん、いよいよ広宣流布の活動も大変なことになってきた。
将来、君には、大変にやっかいな荷物を背負わせてしまうことになるかもしれないな。
昨日から考えているのだが、今度の選挙は、ほんとうに学会にとって新しい面倒な課題を提起(ていき)しているように思うのだ。

≪山本伸一≫ 私も帰りの飛行機のなかで、ふとそのことに気づいたのです。
先生に、ぜひ、お訊(き)きしたいと、昨日から思っておりました。

≪戸田城聖≫ ほう、そうか。責任感が同じなら、考えることも同じだな

≪山本伸一≫ 支援活動を続けることにより、創価学会が、まるで政治的野心を持つように世間から誤解されてしまうのではないか。
広宣流布という深遠な活動が、現実的になり、政治的偏向(へんこう)に傾かざるをえなくなっては、広宣流布は矮小化されてしまうのではないか。

≪戸田城聖≫ 私が今苦慮(くりょ)しているのも、まさにそのことだが、広宣流布の展開からって、まるまる避けて通ることはできない。
となると、単なる戦略に原理がゆがめられる危険は絶対にさけなければならないことになる。これがむつかしい点だ。

現実的な社会というものは、どうしても安易に政治的に流されやすい。
ともかく、日蓮大聖人の精神に微塵(みじん)も違わず応えていくのが、広宣流布の真髄(しんずい)である。
その上にたって立正安国はいかにあるべきかが課題である。

事実、明治に入って、日蓮大聖人の仏法を、国家主義的に解釈した一派もあった。
これこそ、大聖人様の仏法の矮小化です。
われわれは愚かな轍(てつ)を踏んではならないが、その危険はつねにあると自覚しなければならない。
創価学会という仏勅を奉じる宗団を政争の具にまきこんではならないのだ

≪山本伸一≫ ということは、コントロール、の問題ですか。

≪戸田城聖≫ いや、戦術の問題ではない。
広宣流布ということは、人類社会の土壌を深く耕(たがや)し、豊かな稔りある土壌に変えることにある。
そうじゃないか。こんどの戦いだって、妙法を抱く立派な真の政治家らしい政治家を、まずこの土壌から育てなければならぬということに目標を定めて、とりかかった仕事だ。
どこまでいっても信心であり、そして人間に的があるのです。

一人の人間における偉大な人間革命を、終始一貫問題にしなければならない。
そのために政治の分野にも、真の政治家を育成することが、これからの課題となってきたところだよ。

≪山本伸一≫ そうですね。今回当選した人が、なんとしても立派な政治家として育ち、政治の分野の土壌を深く耕してほしいですね。

≪戸田城聖≫ そのとおり。その一歩として、こんどの支援活動をやった。
しかし、その広宣流布の道程が、いかに険難であるかを思い知らされたような気がする。
伸ちゃん、現実は修羅場であり戦場だな。
社会の泥沼には権力闘争が渦巻いている。そのなかで妙法の政治家を育てていくんだから相当の覚悟が必要だ。
まず、権力の魔性と対決することになる。
この権力の魔性という怪物は、信心の利剣(りけん)でしか打ち敗れないんだ。
それは、社会の仕組みもさることながら、深く人間の生命の魔性に発しているからだ。
この見えざる『魔』に勝つものは『仏』しかないからだよ。

≪ナレーション≫ 二人の師と弟子だけの率直な真摯(しんし)な対話は、二時間あまりも続いていた。

≪戸田城聖≫ 広宣流布がどんどん進んで、舎衛(しゃえい)の三億(さんおく)の方程式に、どうやら叶(かな)うような社会が実現したとする。
こういう時代になると、創価学会は社会のあらゆる分野に拡散(かくさん)し、多くの人材を送り出しているであろう。
そうなると、いわば創価学会は、壮大な教育啓蒙的(けいもうてき)母体としてそれにとどまらず、人類の平和と分化の不可欠な中核体(ちゅうかくたい)となるだろう。
今後、やがて時代とともに徐々にこういった方向に向かうと私は考えている。

伸ちゃん、どうもそういうことになるのじゃないか。

要は『人間』を作ることだ。
伸ちゃん、この『人間革命運動』は、世界的に広がっていくことになるのだよ。

≪山本伸一≫ 創価学会が、社会に拡散して、壮大な人間触発(しょくはつ)の大地となる。
そこから、人類の輝かしい新しい未来が眼前に展(ひら)ける。
まことに雄大な構想ですね……。
ずいぶん先の将来に思えますが……

≪戸田城聖≫ 遠いといっても、百年も先のことではあるまい。
しかし私の生涯に、そのような時代が来るとは、思えない。
伸ちゃん、君の時代だ。
それも、後半生の終わりごろから、その傾向が顕著にあらわれてくるのじゃないかな。

≪ナレーション≫ 悠久(ゆうきゅう)に身を委(ゆだ)ねた預言者の顔は、厳しくもまた崇高であった。

そのとき会長室のドアが開いた。そろって入ってきたのは6人の推薦候補者たちである。
今は当選した3人と、落選した3人であった。

話は、たちまち現実にもどったのであります。

本日は、人間革命第10巻、展望の章より、「雲海の着想のお話」を、黎明地区のオールスターキャストで、お送りいたしました。
以上で寸劇人間革命のコーナーを終わります。




この寸劇人間革命を最後まで読んでいただきありがとうございます。
少し堅苦しい寸劇になってしまいました。

この寸劇人間革命の分量はおおよそ 20文字×205行です。

原稿印刷用に、空白行の少ないテキストデータを準備しました。

楽しく有意義な座談会にぜひご活用ください。



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