四月二日のお話


嗚呼、四月二日。
四月二日は、学会にとって、私の生涯にとって、弟子一同にとって、永遠の歴史の日になった。

妙法の大英雄、広布の偉人たる先生の人生は、これで幕となる。

しかし、先生の残せる、分身の生命は、第二部の、広宣流布の決戦の幕を、いよいよ開くのだ。

われは立つ!


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≪ナレーションA≫ 本日の寸劇人間革命は、四月二日のお話であります。

≪戸田幾枝(いくえ)≫ 家に帰らせてください。主人も、それがいちばん、落ち着けるはずです。

≪戸田喬一(きょういち)≫ いや、ぼくは入院させるべきだと思うな。家では十分な治療はできないんだから。

≪山本伸一≫ 奥様のお気持ちもよくわかりますが、私も、この際、先生には入院していただいた方がよいと思います。
先生のご容態は、楽観を許しません。ひとまず入院ということに、なされてはいかがでしょうか。

≪ナレーションA≫ 翌日、伸一は、N大学病院に木田医師を訪ねます。

≪山本伸一≫ もう少し、よい病室はありませんでしょうか。

≪木田医師≫ それが、あいにくすべて、ふさがっておりまして、ようやく、ここを確保したような次第なんです。別の病室が空いたら、すぐに移すようにしますから、ご了承ください。

≪山本伸一≫ わかりました。治療の方は、どうか全力をあげて、最高、最善を尽くしてください。

≪ナレーションA≫ こう言うと、伸一は深々と頭を下げた。
夕刻、総本山に着くと、木田医師は、ただちに戸田の診察・検査を開始したのであります。

≪山本伸一≫ 戸田先生は、「総登山が終わったら、本部に帰る」と何度も言っていた。先生に聞いたら「本部に帰る」と言うにちがいない。

広宣流布という大事業に一身を、なげうってきた先生にとって、その大事業の中枢である学会本部こそ、先生が魂魄(こんぱく)をとどめるに、ふさわしい最後の場所であるはずだ。
師の意志のままに、事を進めるのが、弟子の責務ではないのか。

私は、途方もなく大きな過ちを、犯してしまったのではないか。

≪ナレーションA≫ 木田医師は、一度おさめた聴診器を再び取り出した。そして熟慮の末に、伸一に告げたのであります。

≪木田医師≫ 戸田先生を、寝かせたままの状態で、東京まで移送することができるように、準備を整えてください。

≪ナレーションA≫ 伸一は、直ちに手配を開始したのであります。
すべての手配が整った夜、側近幹部が伸一の体を気遣(きづか)い、すこしでも横になるように勧めた。

≪山本伸一≫ ありがとう。ぼくのことなら大丈夫だ。ここで先生をお守りしようと思う。

≪ナレーションA≫ 総登山の最後の支部も下山し、参道を歩く人影は途絶えていた。夜は、人びとの憂色(ゆうしょく)を包んで、静かに、ゆっくりと、更(ふ)けていった。
伸一は、あの、「五丈原(ごじょうげん)」の歌を、思い起こしたのであります。

今(いま)落葉(らくよう)の雨の音
大樹(たいじゅ)ひとたび倒れなば
漢室(かんしつ)の運(うん)はたいかに
丞相(じょうしょう)病(やまい)あつかりき
丞相病あつかりき

≪山本伸一≫ 今、先生の病は篤(あつ)く、広宣流布の大樹は倒れようとしている。先生を失ってしまったら、学会は、これから、どうなるのか……

≪ナレーションB≫ 時刻は、午前二時になった。
つまり、昭和三十三年、一九五八年、四月一日、午前二時であります。

≪山本伸一≫ 先生、出発いたします。私が、お供いたします。

≪ナレーションB≫ 戸田は、静かにうなずいた。皆で布団(ふとん)を持ち上げた。戸田が、「メガネ、メガネ、……」とつぶやいた。

伸一は両手がふさがっているので、すぐに、メガネを手渡すことが、できない。伸一には、それが心残りだった。

ヘッドライトを連ねて、戸田を乗せた大型の車は、静寂(せいじゃく)な、夜道を、ゆっくりと走っていった。
開き始めた桜の花が、夜の春霞(はるがすみ)のなかに浮かぶ……。

突然、戸田の車がとまった。
伸一は、後続の車から降りて、駆(か)け寄った。

≪山本伸一≫ どうしましたか?

≪ナレーションB≫ 戸田は、ぐったりとしている。
医師は聴診器を当て、それから注射を打った。
医師の顔は険(けわ)しい。

ほどなく、車は、走り出した。また、止まった。
そのたびに、伸一は、駆け降りて、祈るような思いで、様子を見守った。
駅までの道のりが、限りなく遠く、遠く、長く、感じられたのであります。

午前四時。駅に到着した。しばらく待ち時間がある。
やがて、闇のなかに光が走り、寝台列車がやって来た。
懐中電灯をかざして、車中の青年に、合図を送った。
戸田を車内に運び終わると、列車は、すぐに発車した。

≪山本伸一≫ 先生、これで安心です。

≪ナレーションB≫ 「そうか……」こう言って、戸田は、微笑(びしょう)を浮かべた。その微笑が、伸一の心に焼きついた。

午前七時。東京駅に着いた。寝台自動車に戸田を運び、N大学病院へ向かった。病室は女子部員らの手によって、きれいに清掃され、ソファーにはレースがかけられ、カーテンも新しくなり、花も生けられていた。
木田医師をはじめとする医師団が、直ちに診療に取りかかったのであります。

伸一は、病院を出て、そのまま会社に向かった。身も心も疲れきっているはずなのに、頭は妙に冴(さ)えていた。
仕事の書類に眼を通したが、何をしても身が入らない。
春の晴れた、暖かな一日である。しかし、彼の心は、暗雲に覆(おお)われていた。

胸のなかは、荒れ狂う大海のようであった。

≪ナレーションC≫ 翌、四月二日、午後。病院から明るい連絡が入った。

≪秘書部長・泉田ため≫ 今朝、病院へ伺(うかが)うと、先生は、上半身をベットの上に起こしてもらって、おられました。
思いのほか、お元気そうでしたので、私もほっといたしました。

≪ナレーションC≫ 伸一はうれしかった。病状は好転し始めたのだ。
これまでの暗く、重い予感が消えていくのを感じたのであります。

この日、夕刻五時から、連合会議が、学会本部で開かれた。翌日に迫った、本部幹部会などの検討が終わったころであった。
管理人が、ドアを開けた。皆、はっとした表情で伸一を見た。

≪管理人≫ 山本室長。病院からお電話です。先生のご子息(しそく)の喬一さんからです。

≪ナレーションC≫ 伸一は、受話器をとった。落ち着いた語調ではあったが、懸命に感情を抑えているのがわかった。

≪戸田喬一≫ ただ今、父が亡くなりました……

≪ナレーションC≫ その瞬間、伸一の息が止まった。筆舌に尽くせぬ衝撃が五体に走った。体から血の気が引き、頭のなかが白く霞(かす)んでいくのを覚えた。

伸一が戻ると、一同は緊張した顔で、彼に視線を注いだ。伸一の悲痛な表情から、誰もが、最悪の事態に、いたった、ことを直感したようであった。

≪山本伸一≫ 先生は、先ほど、六時三十分に亡くなられました。

≪ナレーションC≫ 皆、一瞬にして顔色を失った。言葉を発する人は、いなかった。ただ沈黙のなかに、誰もが深い悲哀をかみしめていた。その場は、直ちに重大会議となったのであります。

その夜、戸田城聖の亡骸は、彼の自宅に移された。
艶(つや)やかな、眠るがごとき相をしていたが、もの言わぬ人となっての帰宅であった。

≪戸田幾枝≫ あなた。ご苦労様でした……。
家ですよ。ゆっくり、お休みになってくださいね。

≪ナレーションC≫ 首脳幹部たちは、読経・唱題を終えると、すぐに協議に入った。
葬儀の日程などが決定された。
本部幹部会の、式次第も再検討された。
打ち合わせが終わったのは、深夜の十一時を回っていた。

弟子たちにとって、永遠に忘れ得ぬ日となった四月二日は、間もなく終わろうとしていた。
誰もが、今日の、この日が、あまりにも長く、何日にも、何ヶ月にも感じられたのであります。

≪ナレーションA≫ 伸一が自宅に着いた時には、はや午前、零時を回っていた。彼は、師との永久(とわ)の別れとなった、この四月二日という日の、無量の思いを、どうしても日記に書き残しておきたかった。

しかし、数行つづると、ペンを持つ手は止まった。あふれ出る涙が点々とノートをぬらした。
自身の億念(おくねん)は、筆舌に尽くしがたいことを知らねばならなかった。

「立て、立ち上がれ。強くなるのだ、伸一!」

伸一は、自らを叱咤(しった)すると、拳(こぶし)で涙をぬぐい、決然と顔をあげた。
胸に誓いの火が、赤々と燃え上がろうとしていた。
伸一は、唇(くちびつ)をかみしめると、ペンを走らせた。

≪山本伸一≫ 嗚呼(ああ)、四月二日。
四月二日は、学会にとって、私の生涯にとって、弟子一同にとって、永遠の歴史の日になった。

……妙法の大英雄、広布の偉人たる先生の人生は、これで幕となる。
しかし、先生の残せる、分身の生命は、第二部の、広宣流布の決戦の幕を、いよいよ開くのだ。
われは立つ!

≪ナレーションA≫ こう記(しる)した時、伸一の胸中に、戸田の微笑が浮かんだのであります。

本日は、小説人間革命第12巻寂光の章より、「四月二日のお話」を、黎明地区の、オールスターキャストでお送りいたしました。

以上で、寸劇人間革命のコーナーを終わります。




この寸劇人間革命を最後まで読んでいただきありがとうございます。

この寸劇に登場する「木田医師」は以前に掲載した、2つの寸劇に登場します。

その寸劇人間革命を読んでみたい方は、ここをクリック してください

もう一つの寸劇人間革命を読んでみたい方は、ここをクリック してください



この寸劇人間革命は、「星落秋風五丈原」の歌が登場します。
この歌にまつわる寸劇を以前に掲載しました。
その寸劇人間革命を読んでみたい方は、ここをクリック してください

そこには、いろんな資料を、たくさん準備しています。

YOUTUBEにこの歌があります。
SGIメンバーの歌。必見です。
ここをクリック 
2006年10月12日、第64回本部幹部会、第31回SGI総会、東京牧口記念会館。池田SGI会長が、SGI秋季研修会で来日した65カ国・地域の代表260人らと出席。ハービー・ハンコック氏、ウェイン・ショーター氏らアメリカSGI芸術部を中心とした「平和のための国際芸術家委員会」(ICAP)が祝賀演奏。

この寸劇人間革命の分量は、おおよそ、20文字×215行です。

原稿印刷用に空白行の少ないテキストデータを準備しました。

前半部分を省略したショート版(20文字×115行)も、準備しました。


有意義な座談会に、ご活用ください





今回のブログで紹介した(20文字×215行のもの)

≪ナレーションA≫ 本日の寸劇人間革命は、四月二日のお話であります。
≪戸田幾枝(いくえ)≫ 家に帰らせてください。主人も、それがいちばん、落ち着けるはずです。
≪戸田喬一(きょういち)≫ いや、ぼくは入院させるべきだと思うな。家では十分な治療はできないんだから。
≪山本伸一≫ 奥様のお気持ちもよくわかりますが、私も、この際、先生には入院していただいた方がよいと思います。先生のご容態は、楽観を許しません。ひとまず入院ということに、なされてはいかがでしょうか。
≪ナレーションA≫ 翌日、伸一は、N大学病院に木田医師を訪ねます。
≪山本伸一≫ もう少し、よい病室はありませんでしょうか。
≪木田医師≫ それが、あいにくすべて、ふさがっておりまして、ようやく、ここを確保したような次第なんです。別の病室が空いたら、すぐに移すようにしますから、ご了承ください。
≪山本伸一≫ わかりました。治療の方は、どうか全力をあげて、最高、最善を尽くしてください。
≪ナレーションA≫ こう言うと、伸一は深々と頭を下げた。
夕刻、総本山に着くと、木田医師は、ただちに戸田の診察・検査を開始したのであります。
≪山本伸一≫ 戸田先生は、「総登山が終わったら、本部に帰る」と何度も言っていた。先生に聞いたら「本部に帰る」と言うにちがいない。
広宣流布という大事業に一身を、なげうってきた先生にとって、その大事業の中枢である学会本部こそ、先生が魂魄(こんぱく)をとどめるに、ふさわしい最後の場所であるはずだ。師の意志のままに、事を進めるのが、弟子の責務ではないのか。
私は、途方もなく大きな過ちを、犯してしまったのではないか。
≪ナレーションA≫ 木田医師は、一度おさめた聴診器を再び取り出した。そして熟慮の末に、伸一に告げたのであります。
≪木田医師≫ 戸田先生を、寝かせたままの状態で、東京まで移送することができるように、準備を整えてください。
≪ナレーションA≫ 伸一は、直ちに手配を開始したのであります。
すべての手配が整った夜、側近幹部が伸一の体を気遣(きづか)い、すこしでも横になるように勧めた。
≪山本伸一≫ ありがとう。ぼくのことなら大丈夫だ。ここで先生をお守りしようと思う。
≪ナレーションA≫ 総登山の最後の支部も下山し、参道を歩く人影は途絶えていた。夜は、人びとの憂色(ゆうしょく)を包んで、静かに、ゆっくりと、更(ふ)けていった。
伸一は、あの、「五丈原(ごじょうげん)」の歌を、思い起こしたのであります。

今(いま)落葉(らくよう)の雨の音
大樹(たいじゅ)ひとたび倒れなば
漢室(かんしつ)の運(うん)はたいかに
丞相(じょうしょう)病(やまい)あつかりき
丞相病あつかりき

≪山本伸一≫ 今、先生の病は篤(あつ)く、広宣流布の大樹は倒れようとしている。先生を失ってしまったら、学会は、これから、どうなるのか……

≪ナレーションB≫ 時刻は、午前二時になった。
つまり、昭和三十三年、一九五八年、四月一日、午前二時であります。
≪山本伸一≫ 先生、出発いたします。私が、お供いたします。
≪ナレーションB≫ 戸田は、静かにうなずいた。皆で布団(ふとん)を持ち上げた。戸田が、「メガネ、メガネ、……」とつぶやいた。
伸一は両手がふさがっているので、すぐに、メガネを手渡すことが、できない。伸一には、それが心残りだった。
ヘッドライトを連ねて、戸田を乗せた大型の車は、静寂(せいじゃく)な、夜道を、ゆっくりと走っていった。
開き始めた桜の花が、夜の春霞(はるがすみ)のなかに浮かぶ……。突然、戸田の車がとまった。
伸一は、後続の車から降りて、駆(か)け寄った。
≪山本伸一≫ どうしましたか?
≪ナレーションB≫ 戸田は、ぐったりとしている。
医師は聴診器を当て、それから注射を打った。
医師の顔は険(けわ)しい。
ほどなく、車は、走り出した。また、止まった。
そのたびに、伸一は、駆け降りて、祈るような思いで、様子を見守った。
駅までの道のりが、限りなく遠く、遠く、長く、感じられたのであります。
午前四時。駅に到着した。しばらく待ち時間がある。
やがて、闇のなかに光が走り、寝台列車がやって来た。
懐中電灯をかざして、車中の青年に、合図を送った。
戸田を車内に運び終わると、列車は、すぐに発車した。
≪山本伸一≫ 先生、これで安心です。
≪ナレーションB≫ 「そうか……」こう言って、戸田は、微笑(びしょう)を浮かべた。その微笑が、伸一の心に焼きついた。
午前七時。東京駅に着いた。寝台自動車に戸田を運び、N大学病院へ向かった。病室は女子部員らの手によって、きれいに清掃され、ソファーにはレースがかけられ、カーテンも新しくなり、花も生けられていた。木田医師をはじめとする医師団が、直ちに診療に取りかかったのであります。
伸一は、病院を出て、そのまま会社に向かった。身も心も疲れきっているはずなのに、頭は妙に冴(さ)えていた。
仕事の書類に眼を通したが、何をしても身が入らない。
春の晴れた、暖かな一日である。しかし、彼の心は、暗雲に覆(おお)われていた。
胸のなかは、荒れ狂う大海のようであった。

≪ナレーションC≫ 翌、四月二日、午後。病院から明るい連絡が入った。
≪秘書部長・泉田ため≫ 今朝、病院へ伺(うかが)うと、先生は、上半身をベットの上に起こしてもらって、おられました。
思いのほか、お元気そうでしたので、私もほっといたしました。
≪ナレーションC≫ 伸一はうれしかった。病状は好転し始めたのだ。
これまでの暗く、重い予感が消えていくのを感じたのであります。
この日、夕刻五時から、連合会議が、学会本部で開かれた。翌日に迫った、本部幹部会などの検討が終わったころであった。
管理人が、ドアを開けた。皆、はっとした表情で伸一を見た。
≪管理人≫ 山本室長。病院からお電話です。先生のご子息(しそく)の喬一さんからです。
≪ナレーションC≫ 伸一は、受話器をとった。落ち着いた語調ではあったが、懸命に感情を抑えているのがわかった。
≪戸田喬一≫ ただ今、父が亡くなりました……
≪ナレーションC≫ その瞬間、伸一の息が止まった。筆舌に尽くせぬ衝撃が五体に走った。体から血の気が引き、頭のなかが白く霞(かす)んでいくのを覚えた。
伸一が戻ると、一同は緊張した顔で、彼に視線を注いだ。伸一の悲痛な表情から、誰もが、最悪の事態に、いたった、ことを直感したようであった。
≪山本伸一≫ 先生は、先ほど、六時三十分に亡くなられました。
≪ナレーションC≫ 皆、一瞬にして顔色を失った。言葉を発する人は、いなかった。ただ沈黙のなかに、誰もが深い悲哀をかみしめていた。その場は、直ちに重大会議となったのであります。
その夜、戸田城聖の亡骸は、彼の自宅に移された。
艶(つや)やかな、眠るがごとき相をしていたが、もの言わぬ人となっての帰宅であった。
≪戸田幾枝≫ あなた。ご苦労様でした……。
家ですよ。ゆっくり、お休みになってくださいね。
≪ナレーションC≫ 首脳幹部たちは、読経・唱題を終えると、すぐに協議に入った。葬儀の日程などが決定された。本部幹部会の、式次第も再検討された。打ち合わせが終わったのは、深夜の十一時を回っていた。
弟子たちにとって、永遠に忘れ得ぬ日となった四月二日は、間もなく終わろうとしていた。
誰もが、今日の、この日が、あまりにも長く、何日にも、何ヶ月にも感じられたのであります。

≪ナレーションA≫ 伸一が自宅に着いた時には、はや午前、零時を回っていた。彼は、師との永久(とわ)の別れとなった、この四月二日という日の、無量の思いを、どうしても日記に書き残しておきたかった。
しかし、数行つづると、ペンを持つ手は止まった。あふれ出る涙が点々とノートをぬらした。自身の億念(おくねん)は、筆舌に尽くしがたいことを知らねばならなかった。
「立て、立ち上がれ。強くなるのだ、伸一!」
伸一は、自らを叱咤(しった)すると、拳(こぶし)で涙をぬぐい、決然と顔をあげた。
胸に誓いの火が、赤々と燃え上がろうとしていた。
伸一は、唇(くちびつ)をかみしめると、ペンを走らせた。
≪山本伸一≫ 嗚呼(ああ)、四月二日。
四月二日は、学会にとって、私の生涯にとって、弟子一同にとって、永遠の歴史の日になった。
……妙法の大英雄、広布の偉人たる先生の人生は、これで幕となる。
しかし、先生の残せる、分身の生命は、第二部の、広宣流布の決戦の幕を、いよいよ開くのだ。
われは立つ!
≪ナレーションA≫ こう記(しる)した時、伸一の胸中に、戸田の微笑が浮かんだのであります。

本日は、小説人間革命第12巻寂光の章より、「四月二日のお話」を、黎明地区の、オールスターキャストでお送りいたしました。
以上で、寸劇人間革命のコーナーを終わります。

(今回のブログで紹介した  20文字×215行)






前半を省略したショート版 (20文字×140行)

≪ナレーションA≫ 本日の寸劇人間革命は、四月二日のお話であります。
≪ナレーションB≫ 時刻は、午前二時になった。
つまり、昭和三十三年、一九五八年、四月一日、午前二時であります。
≪山本伸一≫ 先生、出発いたします。私が、お供いたします。
≪ナレーションB≫ 戸田は、静かにうなずいた。皆で布団(ふとん)を持ち上げた。戸田が、「メガネ、メガネ、……」とつぶやいた。
伸一は両手がふさがっているので、すぐに、メガネを手渡すことが、できない。伸一には、それが心残りだった。
ヘッドライトを連ねて、戸田を乗せた大型の車は、静寂(せいじゃく)な、夜道を、ゆっくりと走っていった。
突然、戸田の車がとまった。
伸一は、後続の車から降りて、駆(か)け寄った。
≪山本伸一≫ どうしましたか?
≪ナレーションB≫ 戸田は、ぐったりとしている。
医師の顔は険(けわ)しい。
ほどなく、車は、走り出した。また、止まった。
そのたびに、伸一は、駆け降りて、祈るような思いで、様子を見守った。
駅までの道のりが、限りなく遠く、遠く、長く、感じられたのであります。
やがて、闇のなかに光が走り、寝台列車がやって来た。
戸田を車内に運び終わると、列車は、すぐに発車した。
≪山本伸一≫ 先生、これで安心です。
≪ナレーションB≫ 「そうか……」こう言って、戸田は、微笑(びしょう)を浮かべた。その微笑が、伸一の心に焼きついた。
午前七時、東京駅に着いた。寝台自動車に戸田を運び、大学病院へ向かった。主治医たちが、直ちに診療に取りかかったのであります。
伸一は、病院を出て、そのまま会社に向かった。身も心も疲れきっているはずなのに、頭は妙に冴(さ)えていた。
仕事の書類に眼を通したが、何をしても身が入らない。
春の晴れた、暖かな一日である。しかし、彼の心は、暗雲に覆(おお)われていた。
胸のなかは、荒れ狂う大海のようであった。

≪ナレーションC≫ 翌、四月二日、午後。病院から明るい連絡が入った。
≪秘書部長・泉田ため≫ 今朝、病院へ伺(うかが)うと、先生は、上半身をベットの上に起こしてもらって、おられました。
思いのほか、お元気そうでしたので、私もほっといたしました。
≪ナレーションC≫ 伸一はうれしかった。病状は好転し始めたのだ。
これまでの暗く、重い予感が消えていくのを感じたのであります。
この日、夕刻五時から、連合会議が、学会本部で開かれた。翌日に迫った、本部幹部会などの検討が終わったころであった。
管理人が、ドアを開けた。皆、はっとした表情で伸一を見た。
≪管理人≫ 山本室長。病院からお電話です。先生のご子息(しそく)の喬一(きょういち)さんからです。
≪ナレーションC≫ 伸一は、受話器をとった。落ち着いた語調ではあったが、懸命に感情を抑えているのがわかった。
≪戸田喬一≫ ただ今、父が亡くなりました……
≪ナレーションC≫ その瞬間、伸一の息が止まった。筆舌に尽くせぬ衝撃が五体に走った。体から血の気が引き、頭のなかが白く霞(かす)んでいくのを覚えた。
伸一が戻ると、一同は緊張した顔で、彼に視線を注いだ。
≪山本伸一≫ 先生は、先ほど、六時三十分に亡くなられました。
≪ナレーションC≫ 皆、一瞬にして顔色を失った。言葉を発する人は、いなかった。その場は、直ちに重大会議となったのであります。
その夜、戸田城聖の亡骸は、彼の自宅に移された。
艶(つや)やかな、眠るがごとき相をしていたが、もの言わぬ人となっての帰宅であった。
首脳幹部たちは、読経・唱題を終えると、すぐに協議に入った。葬儀の日程などが決定された。本部幹部会の、式次第も再検討された。打ち合わせが終わったのは、深夜の十一時を回っていた。
弟子たちにとって、永遠に忘れ得ぬ日となった四月二日は、間もなく終わろうとしていた。
誰もが、今日の、この日が、あまりにも長く、何日にも、何ヶ月にも感じられたのであります。

≪ナレーションA≫ 伸一が自宅に着いた時には、はや午前、零時を回っていた。彼は、師との永久(とわ)の別れとなった、この四月二日という日の、無量の思いを、どうしても日記に書き残しておきたかった。
しかし、数行つづると、ペンを持つ手は止まった。あふれ出る涙が点々とノートをぬらした。自身の億念(おくねん)は、筆舌に尽くしがたいことを知らねばならなかった。
「立て、立ち上がれ。強くなるのだ、伸一!」
伸一は、自らを叱咤(しった)すると、拳(こぶし)で涙をぬぐい、決然と顔をあげた。
胸に誓いの火が、赤々と燃え上がろうとしていた。
伸一は、唇(くちびつ)をかみしめると、ペンを走らせた。
≪山本伸一≫ 嗚呼(ああ)、四月二日。
四月二日は、学会にとって、私の生涯にとって、弟子一同にとって、永遠の歴史の日になった。
……妙法の大英雄、広布の偉人たる先生の人生は、これで幕となる。
しかし、先生の残せる、分身の生命は、第二部の、広宣流布の決戦の幕を、いよいよ開くのだ。
われは立つ!
≪ナレーションA≫ こう記(しる)した時、伸一の胸中に、戸田の微笑が浮かんだのであります。

本日は、小説人間革命第12巻寂光の章より、「四月二日のお話」を、黎明地区の、オールスターキャストでお送りいたしました。
以上で、寸劇人間革命のコーナーを終わります。

前半を省略したショート版(20文字×140行)



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テーマ: 二次創作 | ジャンル: 小説・文学

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